中国東北旅行4 モンゴル砂漠の中心で愛を叫ぶ

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ノモンハン→嵯岗→ハルビン

 

 ノモンハンからシンバルクサキに戻る。満州里という中露国境の街に行きたいが、そこまでのバスは朝しかないようなので、嵯岗というハイラル満州里の間にある街に行く。そして嵯岗で満州里行きのバスに乗り換えるのだ。

 この道はあまりちゃんと舗装されておらずバスはよく揺れた。そして嵯岗に着いたが、バスターミナルはもう閉まっていた。嵯岗は予想よりずっと田舎である。非常に心細い。砂が混じった風がびゅうびゅう吹いていて寒いし、先もあまり見えない。土地の人に聞きながら鉄道駅を訪ねると、窓口は閉まっている。次の汽車は21時。それまで3時間ある。嵯岗の町、というか村に戻り、餃子屋で餃子を食べる。

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(嵯岗の大通り)

 

 鉄道で硬座しか取れなかったり、意に反して田舎に滞在したり、非常に行き当たりばったりの旅をしているが、これもスマートフォンがないせいである。スマートフォンがあれば嵯岗が田舎であることもわかったし、鉄道の切符も中国の電話番号を入力すればネットで買えるし、バスの時刻も調べられる。

 中国の携帯はSIMフリーで、日本からSIMフリーの端末を持って中国の携帯会社で契約すれば3G、4G回線が使えるのだが、S社との2年契約がまだ残っており、SIMフリー端末をまだ買っていないのだ。契約期限に近づいたらSIMフリーの格安スマホに切りかえて、中国でも使うつもりだ。だが、嵯岗で僕は、端末だけでも買って持ってくれば良かったと非常に後悔した。

 スマホを使い始めてもうすぐ2年、スマホを使い始めてからはこれまで海外旅行に行っていなかった。つまり、この2年近くずっとスマホとともにいたことになる。まさかスマートフォンがない、インターネットが一時的にでもない生活がこんなにつらいものだとは思わなかった。一度一緒になってしまうと、もう別れられない。スマホはまるで小説に出てくる恋愛のよう。嵯岗の町はこのモンゴルの砂漠の中にポツンと佇んでいる。まるでオーストラリアのエアーズロックのように。オーストラリアのエアーズロックは地理的には全然世界の中心を名乗る根拠がないのに、世界の中心ということになっている。モンゴルの砂漠の中に佇む嵯岗も、その原理で言えば世界の中心、は無理にしても、モンゴル砂漠の中心くらいは名乗ることができるだろう。僕は嵯岗というモンゴル砂漠の中心でスマートフォンへの愛を叫ぶことにした。思いを載せた声は砂嵐に消えてしまったが、モンゴル砂漠の人々に届いただろうか。

 20時、嵯岗駅に行き、ハルビンまでの切符を買う。日程上、満州里は諦める。寝台は売り切れており、硬座である。

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 切符を買う時はパスポートがいるので、日本人であることがバレる。汽車の出発が近づくにつれ人びとが駅に集まり、珍しい日本人ということで色々質問される。

 汽車ではモンゴル族の青年が興味を持って話しかけてくれる。父母と兄夫婦は嵯岗の南100kmのところで遊牧をしており、彼自身はハイラルの高等学校で教師をしているという。「日本のAV女優は綺麗だ」「蒼井そらはとても有名」とか言う。そういえば、長春ハイラルで隣の席になった青年も同じことを言っていた。インドを旅行した時も、バラナシのシルク屋のおっちゃんは、アダルトビデオを手に持って「日本のジギジギムービーはまじクールだぜ!」と言っていた。アジア中で人気なのだろうか。モンゴル族の彼に、「中国の冗談で、“釣魚島是中国的,蒼井空是世界的”(尖閣諸島は中国のもの、蒼井そらは世界のもの)というのを知ってるけど、あれ面白いね」と言うと、しばし笑った後、「尖閣諸島はどっちのものだと思う?」と聞かれる。自分から半分話を振っておいてなんだが、よくわからないので「我不知道(知らない)」と答えると、しばし沈黙した後小さな声で、「我是蒙古族,我不喜欢汉族(俺はモンゴル族だ、漢族は嫌いだ)」と言う。彼としては、中国に対立している日本の国民ということで、アンチ中国の共感を得たかったのかもしれない。

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(左に「蒼井空」の名がいくつか見られる)

 彼は内蒙古省都フフホトの、内蒙古大学を出ているという。「内蒙古って中国かモンゴルかどっちだと思う?」と聞かれる。でもやはりわからないので、「知らない」と答える。やはりモンゴル族の人には今の中国とモンゴルの関係を複雑に思っている人がいるのだなと実感する。モンゴル第二の都市、チョイバルサンに友人がおり、年に一度はハイラルから飛行機に乗って行くという。片道3万5千円もするという。ハイラルチョイバルサンはすぐそこなのに、鉄道やバスでは行くことができないのだろう。

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 もともとモンゴルの遊牧民には国境なんて関係ないものなのに、近代が「民族」を作り出し、民族自決という概念を作り出し、にも関わらず20世紀の政治がモンゴル民族を二つの国に分けてしまった。かのモンゴルの青年は、iPhone6を1年ローンで買っていたくらいだから、決してお金が余っているわけではないだろう。ハイラルチョイバルサンが陸路で安く行けるようになり、彼が気軽に友人に会えるようになることを願うばかりである。

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 ハイラルをすぎると一人になったので、眠ることにする。ガラガラなので、3人席に横になる。気温は10度を下回っている。人々は座席カバーを毛布にしている。僕もそれに習うこととする。